エンジニアのためのビデオ会議改善Tips

目的

この記事は自宅でのビデオ会議の品質を、入手性が高く安価な部材で向上させることを目的としています。

ビデオ会議を円滑に行うために、以下の点を目標とします。

  • 機材トラブルで中断しない
  • 意思決定に十分な程度の画質、音質を確保する
  • 参加者の疲労度を下げる
  • 省スペースで安価な機材を利用する

想定する環境

想定する読者

  • ビデオ会議を行うエンジニア
  • ビデオ会議形式で授業を行う学生
  • 映像撮影/配信の専門的な知識はない

この記事は外出自粛要請後、突然ビデオ会議を実用化せざるを得なくなった人を読者として想定しています。

想定する場所

  • 自宅(電源と通信環境が確保でき、道具を保管できる)
  • 機材を設置できるデスクがある

執筆時点(2020/04/25)は外出自粛要請が出ており、公共スペースやオフィスなどでのビデオ会議参加は考慮していません。

機材購入の制限

この記事は、外出自粛要請後にビデオ会議の需要が急増し、それにあわせて機材の購入が難しくなっていることを前提としています。たとえばUSB接続のWebカメラは品切れ状態で、新規に購入できません。そのほかビデオ会議用機材も在庫が不安定になったり、価格が高騰しています。購入不能なものは手持ちの機材を活用し、入手可能で安価なもので補います。 機材の品薄が改善したら、機材への投資も検討してください。

音声

ビデオ会議におけるコミュニケーションの中心は音声です。音質の向上は参加者の疲労軽減に直結します。ビデオ会議用機材へ投資をするなら、まず音質向上のためマイクを購入することをオススメします。マイクは全体的に品薄ですが、まだオンラインストアで購入できます。

マイクの種類

PCに接続可能なマイクは、おおまかに3種類です。

ヘッドセット

ヘッドホンとマイクが一体になったタイプです。ヘッドセットのマイクは口元の音のみを拾うよう調整されていて、ノイズを拾いにくく会話に集中できます。自宅から参加するビデオ会議という条件なら、まずはヘッドセットをオススメします。

コンデンサーマイク

USBやミニプラグでPCと接続する単体のマイクです。音質はヘッドセットよりも良く、臨場感のある音声が拾えます。しかしその感度の良さから、外部ノイズも拾いやすい傾向があります。自宅には空調、家族の足音、車の騒音など多くのノイズ源があります。自宅にスタジオのような収録環境を用意するのは難しいので、ヘッドセットに続く第2候補となります。

マイクスピーカー

会議室にあるような、スピーカーとマイクが一体になった機器です。多人数でビデオ会議に参加する場合威力を発揮します。マイクスピーカーは構造上マイクが自分自身のスピーカーの音を拾ってしまう問題があります。これを解決するため、マイクスピーカーには強力なノイズ・エコーキャンセル機能が搭載されています。 こうした構造上の制約のため、マイクスピーカーは非常に高価です。多人数で同時に参加することのない自宅ビデオ会議なら、避けるのが無難です。

マイクの設置・設定

次にマイクの設置、接続に関する条件を整理します。

Bluetooth接続は避ける

現状では、Bluetooth接続マイクの音質には問題があります。これはBluetoothのHFPプロファイルがハンズフリー通話を前提に設計されいるためです。このプロファイルは低遅延と低消費電力を優先しており、音質が犠牲になっています。具体的には、HFPプロファイルのサンプリング周波数は8kHzか16kHz、有線マイクは44.1kHzです。

有線接続マイクとBluetoothヘッドセットの録音データが以下の記事で紹介されています。

PC Watch : Windows 10はBluetoothの高音質通話「HD Voice」に対応したのか?

将来的にはマイク音質重視のBluetoothプロファイルが用意されるかもしれません。しかし、現在では有線接続や、2.4GHz帯の独自規格無線の方が音質的に有利です。

マイクスポンジ

「パピプペポ」などの破裂音を発声すると、口からは突風が出ます。この突風がマイクに衝突するとボツボツというノイズになります。このノイズをポップノイズといいます。こうしたノイズは聞き手を疲労させます。 ポップノイズの回避方法は、マイクスポンジやポップガードです。マイクスポンジは数百円程度で購入できます。費用対効果が非常に高いので、是非用意しましょう。

最近のヘッドセットやマイクにはマイクスポンジが装着されていない事があります。これは以下の2つの理由からです。

  • マイクにノイズ除去機能が搭載されたため、意味が薄れた
  • スポンジは消耗品なので、在庫として保管されている間にも品質が劣化する

スポンジは経年劣化するため、定期的に交換する必要があります。しかしその手間や費用に見合うだけのノイズ除去効果があります。

音質改善機能は選ぶ

ビデオ会議ソフトウェアには、マイク入力の補正機能が備わっています。機能は大きく分けて以下の3つがあります。

  • ノーマライズ : 音量の急激な変動を防ぎ、一定にそろえる
  • ノイズ除去 : 環境音などのノイズを除去する
  • エコー除去 : スピーカー出力をマイクが拾った場合に働き、ハウリングを防ぐ

これらの機能は便利なものですが、音質劣化や遅延を招きます。状況に合わせてOFFにしましょう。

2020/09/01にZoomがアップデートをしました。このアップデートには音質関連の設定「High Fidelity Audio mode」(高忠実度音楽モード)が追加されています。要求される音質に合わせてこの機能をONにすることを検討してください。

ノーマライズは複数の参加者の声を1本のマイクで収録し、声の大きさをそろえるのには便利な機能です。しかし、ヘッドセットなど口とマイクとの距離を固定できるなら、この機能は必要ありません。可能ならばOFFにしましょう。

ノイズ除去はエアコンの動作音や足音、キーボードのタイプ音などを除去します。聞き取りやすさが向上しますが、音のひずみも大きくなります。水中にマイクを置いたような、独特なこもった音になります。指向性マイクを使っている場合は「低」にしましょう。 また、ノイズ除去は専用ソフトがあります。ライセンス料が必要になりますが、ビデオ会議ソフト内蔵のノイズ除去機能よりも高性能で音のひずみが小さくなります。より強力なノイズ除去機能が必要な場合は導入を検討してください。

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エコー除去はハウリングを防ぎます。ハウリングは会議全体を中断させます。OFFにするのはオススメしません。

これらの機能は個別にON / OFFを選択できます。また、高忠実度音楽モードもメニューから設定できます。例としてZoomでの設定方法をご紹介します。

ルール

ビデオ会議特有のしゃべり方に関するルールを確認します。

できるだけゆっくり喋る

ビデオ会議は回線速度の瞬間的な低下により、音飛びが発声します。音飛びの悪影響を抑えるため、喋るスピードは心持ちゆっくりにすると良いでしょう。

発言は被せない

ビデオ会議では音と映像の遅延が起こります。そのため会話の掛け合いが苦手です。相手の発言がきっちり終わっていることを確認してから応答しましょう。 また、司会者を用意して発言権の制御を委ねるというのも1つの方法です。

適度な水分補給

ビデオ会議での発話は、思った以上に喉を酷使します。水分補給をこまめにし、喉を保護しましょう。また、口が渇いた状態で喋るとペチャペチャというリップノイズが発声します。リップノイズ抑制にも、水分補給が有効です。

マイクは絶対に触らない

会話中にマイクを触ると、相手には大きなノイズが聞こえます。これは参加者を大きく疲労させる禁止事項です。ビデオ会議中にマイクは触ってはいけません。マイク位置を調整するなど、どうしてもマイクに触らなければいけないときは、ソフトウェア側のミュート機能を使うべきです。

映像

現在(2020/04/25)Webカメラは品薄です。いまあるWebカメラやノートPC内蔵カメラで、よりよい撮影を行うためにはどのような工夫が必要か確認します。

光量

映像に大きな影響を与えるのは、カメラ自体の性能よりも光量です。こちらの動画を見ていただければ、ライティングがどれだけ劇的に映像を変えるかがわかります。

YouTube : Studio Makeover w/ONLY $300!

ビデオ会議での撮影失敗原因は、大抵が顔の光量不足です。まず壁際にデスクがあると、室内照明は逆光になり顔が影になります。そしてWebカメラの自動露出補正で明るい背景に露出が合うと、顔が真っ暗に潰れます。また、自動露出補正により光量不足を補った映像は、ノイズが入りざらつきます。

ビデオ会議では、とにかく顔を明るく照らすべきです。

窓を利用する

安価で強力な光源がどの家にもあります。窓です。デスクをなるべく窓に近づけ、顔を照らしましょう。これで昼間は莫大な光量を確保できます。 安価にプライバシーと光量を両立する部材としてプラダンがあります。数百円程度で窓サイズの一枚板が購入できますので、窓枠サイズにカットしてはめ込みます。光量を確保したまま目隠しになりますし、光を拡散するのでまぶしさを抑えて影をやわらかくします。

ライトの代用品を探す

窓以外にも利用できる照明はあります。デスクライトがあるならそれで顔を照らしましょう。それだけでもかなりの光量を確保できます。 デスクライトがないなら他にも代用品はあります。エンジニアの自宅にはよくある型落ちの液晶ディスプレイやタブレットです。これに真っ白な画像を表示し、輝度最大で点灯します。デスクライトに劣らない光量が得られます。

背景

自宅でのビデオ会議で問題になるのが背景です。生活感溢れる部屋の中が映り込まないようにするのは大変です。

パーティションやカーテンを用意する

ビデオ会議ソフトには、背景ぼかし機能が搭載されているものがあります。これでも生活感を隠しきれない場合は、パーティションやカーテンを用意して背景を隠してしまいましょう。数千円程度で入手可能ですし、在庫は潤沢です。パーティションは在宅勤務時の目隠しと集中力維持にも利用できますので、あって損はないでしょう。

バーチャル背景画像にぼかしを入れる

一眼レフカメラで撮影した写真や映像は被写界深度が浅く、綺麗に背景がボケています。バーチャル背景でこれを再現するため、背景画像に強めのぼかしを入れてみましょう。意外とそれっぽく見えます。

How To Make A Webcam Look Like A DSLR

こちらの方は配信用ソフトでリアルタイムに背景ぼかしを処理しています。 画像加工ソフトで静止画にぼかしを入れても似た効果を得られます。

バーチャル背景をレジュメやアジェンダにする

バーチャル背景は画像ファイルならどんな内容でも表示できます。こちらの会社では、背景名刺ソリューションを提案しています。

ZOOM専用の「 #バーチャル背景名刺 」の作成サービスをスタート。ZOOM活用のアドバイスもあわせて行います。

たとえばビデオ会議を効率化するために、アジェンダを表示することもできます。他にも多くの活用法がありそうです。

画面共有

画面共有をする場合、映像越しでは細かい部分が見辛くなります。パワーポイントの資料を共有するならとくに問題はありません。しかしアプリケーションを操作しながら手順を説明すると細部がかなり見辛くなります。アプリケーション画面は、不自然なほど拡大してちょうど良いサイズになります。

アプリケーションは150%以上拡大

さまざまなアプリケーションで、UIを含めて拡大縮小ができます。 たとえばVisual Studio Codeの場合、以下のメニューで表示サイズの変更とリセットができます。

Google Chromeは開発者ツールとWebページ、それぞれを個別に拡大縮小できます。開発者ツールにマウスでフォーカスし、Command + / Command - のショートカットを入力すると、開発者ツールのみを拡大縮小できます。拡縮のリセットはCommand + 0です。

マウスカーソルは最大サイズに

共有している画面でマウス操作を行うなら、マウスカーソルサイズは最大にすべきです。 マウスを操作しているユーザーは、手の感触でおおよそのマウスカーソル位置を把握しています。しかし、画面共有をしているユーザーにはその情報がありません。マウスカーソルを簡単に見失います。

たとえばMacの場合は、システム環境設定の以下の項目からマウスカーソルサイズを変更できます。

あえてモニター解像度を落とす

高解像度の情報が必要ないなら、サブディスプレイの解像度を落として画面共有するのも手です。通信帯域の節約にもなります。

通信環境

ビデオ会議での、通信環境についての要件と対策を考えます。通信環境は変更に大きなコストと時間が必要になりますので、なるべく低コストで現在でも入手が容易な方法で通信環境を改善します。

要件

ビデオ会議に必要な通信回線の要件を確認します。

思ったよりも帯域は要求されない

ビデオ会議は、意外にも帯域をさほど要求しません。

たとえばZoomの場合、HDビデオ + ギャラリーモードというもっとも要求の高い条件でも1.5Mbpsでまかなえます。ビデオを標準解像度に切り替えれば、要求帯域は1.2Mbpsに減らせます。

帯域が大きければ、別デバイスの通信やバックグラウンド処理が動いてもビデオ会議の安定性が増します。しかし、帯域を必要以上にあげるだけではビデオ会議の品質は向上せず頭打ちになります。

累積の通信量は大きい

ビデオ会議の累積の通信量は大きくなります。

主要なテレカンツールのデータ通信量ってどのくらい?

ビデオ会議の場合1時間で1GB以上の通信量になります。月あたりの通信量が制限されている携帯回線では、数回のビデオ会議で上限に達してしまいます。ビデオ会議を使うなら固定回線は必須です。

瞬間的な速度低下に弱い

ビデオ会議は、瞬間的な速度低下や通信切断に弱いという特徴があります。

たとえばYouTubeなどのオンデマンド映像配信は、瞬間的な速度低下という問題をバッファーで解決しています。映像をできるだけ先読みしておき、速度低下がおきたら先読みしたデータを再生、速度の回復を待ちます。

ビデオ会議ではバッファーが限定的にしか使えません。先読みすべきデータがないからです。大抵のビデオ会議ソフトでは、映像をわずかに遅延させてバッファーに充てています。バッファーが利用できれば速度低下には強くなりますが、映像や音声の遅延とのバーターになります。

対策

ビデオ会議を快適にするには、通信速度を安定させるのが効果的です。

有線LANにする

無線LANは瞬間的な速度低下をおこします。外部要因に影響されやすく、他のアクセスポイントや電子レンジなどのノイズによって通信が阻害されます。こうした速度低下を避けるために、ビデオ会議ではできるだけ有線LANを使うことをオススメします。ノートPCの場合、無線LANで接続していることが多いですが、有線LANケーブルを接続すれば通信速度は安定します。 カテゴリー6のフラットLANケーブルなら、入手性が高くドアも越えられます。現在15mで1500円程度です。

スマホやタブレットなど、有線LANを使えない機器もあります。その場合、有線LANケーブルを使って無線LANアクセスポイントを近づけるのもオススメです。

IPoE

フレッツ光で固定回線を契約している場合、v6オプションというものがあります。PPPoEではなくIPoEという接続方式を使い、NTTのNGN網に直接接続します。特定の時間帯に接続速度が急激に落ちる場合、このオプションを契約することで速度低下を抑えられる可能性があります。


音声、映像、通信環境の3要素で、ビデオ会議をより快適にする方法を確認しました。 それぞれのTipsは独立していますので、使えそうだなというものをつまみ食いしていただければ幸いです。

ありがとうございました。